暁のかたる・しす

文筆家/編集者・中川大地のはてなダイアリー移行ブログです。

【仕事告知】タチコマ本『しょく〜ん!』と『サイゾー』ポニョ特集

qyl010212008-10-23

 いつもながらリアルタイムからワンテンポ遅れての告知で恐縮ですが、先日、半年間かけて編集した久々の書籍と、これまた久々にガッツリと特集構成をやった「サイゾー」が発売になりました。

 本の方は、『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』シリーズに登場する、一見可愛らしいコメディーリリーフだけど実は作品テーマを深く体現しているという思考戦車「タチコマ」を全面フィーチャーしたファンブックです。

◆TACHIKOMA'S ALL MEMORY  しょく〜ん! 

攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX TACHIKOMA'S ALL MEMORY しょく〜ん

攻殻機動隊STAND ALONE COMPLEX TACHIKOMA'S ALL MEMORY しょく〜ん

http://www.kisousha.co.jp/tachikoma/

 『攻殻S.A.C.』関係の本というと、とかくマニアックな資料性とかスノッブなスタイリッシュさを狙って、やたら詰め込み気味でとっつきづらい、黒っぽい装丁のものが多かったんですが、白くて青いキャッチーな正方形が特徴の本書。下記ニュースサイトでも類書にないユニークさとご紹介くださってて、ありがたいこってす。

攻殻機動隊 S.A.C.」のタチコマONLY本 10月20日に発売
http://animeanime.jp/news/archives/2008/10/_saconly_1020.html

 タチコマ自身の語り口調でメモリーをプレイバックするという趣向でシリーズの全ストーリーを改めて見返すという基本構成の中に、作り手として込めた思いとしては、なるべく親しみやすいシンプルな語り口を採ることで、むしろお話と主題の本質を鮮明にすること。『攻殻S.A.C.』シリーズは、観る側がつい「インテリ転がし」的なかたちで細部の難解なキーワードに引っかかって、逆に読み解きのピントがボケてしまうことが起こりがちな作品なのだけれど、まさに「無知の知」を地でいくタチコマ自身のごとく、「ああ、『S.A.C.』って要するにそういう作品だったよね…!」ということが改めてクッキリと見えてくる本になったかなって思います。


 『サイゾー』11月号の方でやったのは、『崖の上のポニョ』総括特集。遅れてきた夏休みの自由研究って感じですかね。

◆大混乱の『ポニョ』論争を考える!
http://www.cyzo.com/2008/10/post_1070.html
<<スタジオジブリ宮崎駿の最新作『崖の上のポニョ』が、大ヒット中だ。鈴木敏夫プロデューサーが「傑作」と断言し、作品への評判も上々だが、巷の声に耳を傾けてみると、肝心な「物語」に関しての解釈や評価が、不思議なくらいにバラバラ! いまあらためてその魅力を探るべく、気鋭の論者らと共に『ポニョ』の "正体"を考える!>>

 …といったミッションを拝命して、これまでに語られた『ポニョ』論の状況整理をしつつ、切通理作さん、町山智浩さん、宮台真司さん、東浩紀さん、宇野常寛さんといった、サブカルチャー論壇的には大変豪華な5名に揃い踏みを実現。どれも目から鱗の発見ばかりで、取材も執筆も非常に楽しい仕事でした…!
 とはいいつつも、僕自身の感触としては、上の主旨文で謳われているほど本質的な意味での「解釈論争」は、巷でも今回の論者たちの間でもなかったんじゃないかな? と感じていたりもして。なにせ、あらゆる階層の人が観るほぼ唯一の「国民作家」たる宮崎駿なのだから、評価のレベルに一定の賛否の幅があるのは当然のこと。なので、ただ「こんなにいろんな意見がある」という並記に留めず、評価の分岐が生まれるポイントを明らかにした上で、むしろ「宮崎駿」という複雑な存在に対する論者たちの、ひいては日本人のコンセンサスの在り方が今どうなっているのかという点に関心を持ちながら、皆さんの語りをコーディネートさせていただきました。
 実際、『ポニョ』で発揮された宮崎監督の圧倒的な体感喚起力には誰一人文句をつけず、インテリの中途半端な解釈づけには意味がない、とする点では皆が一致していて、一筋縄ではいかない『ポニョ』とハヤオの多義性にどう向き合うかという批評家としての実践的な態度だけが、それぞれのスタンスに応じて異なっていたのだと思いますので。

 そんなわけで、この特集を読んでからもう一度『ポニョ』を観ると、かなーり色々な発見があると思いますよ。そしてとりもなおさずそれは、自分自身の立場や経験の再発見でもあるという…。
 で、僕自身がどんな再発見できたかまでは紙幅的にも特集趣旨的にも誌面には書けなかったので、いずれ何かの機会にまた。