暁のかたる・しす

文筆家/編集者・中川大地のはてなダイアリー移行ブログです。

おれたちを「直接」苦しめてくれた悪党たち

発売中の『架空世界の悪党図鑑』(isbn:4062126567)で取りあげた、ゲームの悪党一覧を掲載順に掲げておきましょう。


別格メジャーなドラクエ、FFおよび対戦格闘以外の項目は、他メディアの章と同じく本書独自の視点で5段階評価した「知力」「武力」「カリスマ」「権力」「ポリシー」のパラメータの合計値が高い順にならべてあるわけですが、むしろ下にいくほど各作品のキャラクター設定上の「強さ」「悪さ」の定義でははかりしれない、プレイヤー自身が身をもって味わうゲームならではのプリミティブな体験性が剥き出しになってくるような印象があります。
あと、他メディアよりもパロディチックなコミカルな悪役の割合が多いのも特徴か。
そもそも、人が日常ではすることのできない「欲望に忠実な生き方ーーピカレスクライフ」に感情移入できるモデルとして、各種表現における悪党造形がもつ人間観の陰影を味わおうというのが本書のテーマなわけだけど、ゲームの場合は元から欲望の解放ツールなわけだから、プレイヤーが相対する悪党自体に深い陰影を付与する必要がないんですよね。
要は、コンピュータの用意する適度な障害をブチ倒してスカッとする快楽を社会的に正当化するために、その障害に「悪い敵である」という言い訳が用意されてるだけ、という順番なのだから。
そんな、ゲーム体験に即したエクスキューズでしかないゆえに、よそから引っ張ってきた「悪」のお約束を踏襲してきたのがゲームの悪党デザインの系譜でしょう。けれどもそれが実際のゲームシステムの制約でたまたま本来表象したかったイメージとズレてしまったり、あるいは作り手側が先回りして自覚的にヒネったり茶化したりもするようになる。そんな作り手とプレイヤーの共犯関係の中に、ゲームならではの悪党のクリエイティビティが生じているんじゃないか、とも思うわけですよ。