暁のかたる・しす

文筆家/編集者・中川大地のはてなダイアリー移行ブログです。

山田洋次の〈世界〉 体感版

qyl010212004-11-19

切通理作氏の新著『山田洋次の〈世界〉』(isbn:4480062017)発売を記念しての、池袋ジュンク堂での佐藤利明氏とのトークショーに参加した翌日。
さっそく公開中の『隠し剣 鬼の爪』を観にゆく。


恥ずかしながらスクリーンで観るなんと初めての山田映画。
これが相当に新鮮な体験だった。


一般的な映画体験のありかたとして、作品を観終わって劇場を出た観客がすっかりヒーローになりきっているという状態ってよくきくけれど、どうも僕自身に関してはそうした実感が、記憶の中にほとんどみあたらない。
多分それは、物心ついたときからSFやファンタジー全盛で、生身の人間のヒーローの活躍する娯楽的な時代劇や現代劇を劇場で観る機会がほとんどなかった自分の体験固有の偏りなんだろうと思うのだけれど。


で、今回の観賞後は、知らず知らずのうちに宗像よろしく、つい秘伝「鬼の爪」の手マネをしていたりする状態を、齢30にして初めて意識できるレベルで体感。
80年代以降の洋画の過視的((c)東浩紀)な「スペクタクル」に偏りすぎた自分の身体の中に、ある世代以上の日本大衆なら誰もが共有していた「娯楽映画」への感応がようやく目覚め、それを媒介にナンバ・摺り足な近代化以前の日本人の身体性のリアリティまでもつかのま恢復できたような気にさえなれて、なんだか嬉しかった。


他人にとってはきっとまるで取るに足らない、ほんの些細な私事だろうけれど、もしかしたら多少は「継承」と呼びうる何かであるのかもしれない一例として。
後進に伝えるべき当たり前の普遍を、生きたかたちで語り伝えることのできる、数少ない尊敬可能な原おたく/新人類世代であろう、切通・佐藤両氏の的確なガイドにも感謝。